海外向けECこそプロセスを重視すべき理由

えー、本当は先週の続きで海外向け販売で戦略を決める要因について書くべきだと思うのですが、先週勤務先で、私がかかわっている海外向けECアプリケーションとアクセス解析サービスとの連携についてのイベントを行ったところなので、現在の海外向けECにおける課題とアクセス解析との関連性について少し。(※セミナーの前座で喋った内容に加筆したものです。)

この文章を書いている2010年6月時点で、日本国内だけではなく海外へも物を売ろう、そしてそのツールとしていわゆるECアプリケーションを活用しよう、という動きはずいぶん活発化している。
6月1日には、日本最大の検索エンジンYahoo!Japanが、自社ショッピングモールに関して、中国最大のオンラインマーケットプレースである淘宝网(Taobao http://www.taobao.com/)との提携を発表、同モールの商品の一部をTaobao内で販売する「陶日本」(TaoJapan http://www.taojapan.com/)を立ち上げた。


5月20日には、日本最大のオンラインモールである楽天が、米ECサイトBuy.com(http://www.buy.com/)の買収・子会社化を発表した。このECサイトは広範な商品を取り扱っているほかマーケットプレース事業も行っており、ユーザー基盤として1,400万人を有する。楽天にとって現地のEC事業の足掛かりとするものと思われる。
また、楽天は本年初頭の1月27日にも、中国最大の検索サービスBaidu(百度)との提携を発表している。百度楽天双方から総額43億円の資本を出し合弁会社を設立、本年後半から中国本土におけるショッピングモール事業を開始するという。

さて、これ以前にも2008年ごろから海外向けECの動きは少しずつあって、たとえば日本郵便が主導しているJapaNavi(https://japanavi.post.japanpost.jp/pg/index.axl?p=1986001&lang=cn&sid=)、SBIベリトランスが運営する佰宜杰(Buy-J http://www.buy-j.com/shop/)、ニッセン等が運営するJShoppers(日本からはアクセス制限がかかっているため、リンク先は運営会社のナビバード内の紹介ページ http://www.navibird.co.jp/jp/jshoppers_info.html)などが有名どころかもしれない。

上記の2008年あたりから運営されている大手の海外向けECだが、漏れ聞く限り比較的軌道に乗ったと言えるところは一部だけで、かつ、いずれも苦戦を強いられている模様だ。それは私がお手伝いをしているような中小規模の海外向けECサイトでも同じで、特に性格として総花的なサイトは苦戦している気がする。現地へ提供する価値を設計するといった部分は、アプリケーションを提供するベンダー側からは如何ともしがたいのだけれど、他にも売上が伸び悩む要因はある気がしている。その一つがプロセスの把握が困難だということだ。

日本国内向けのECサイトだと、日本語の広告・広報戦略、およびその表現、店舗内あるいは各種のコミュニケーション手段からの導線の適切さを、運営者である日本人・日本企業が観察してある程度修正ができる。多数のECサイトにかかわってきたコンサルタントが特定の商材に限らず売れる店舗作りができるのと同様の理由だ。

しかし、海外に向かって販売する際には、言葉や現地の文化がわからないことから同じノウハウの適用が困難になる。このため、現地ネイティブの協力を得ることは非常に重要だ。

また、これとは別に現在選択している戦略や戦術が正しいのかどうか、日本国内よりも丁寧に調べる必要を感じている。

特に個人的に憂慮している点として、特に中国向けのECサイトは「バブリーにお金を使う富裕層」「最も将来性のある市場」といった言葉が独り歩きして「Webサイトを作りさえすれば売れる」といった幻想を抱く企業を見かけることが(残念ながら今だに)ある。また、広報的な必要性から従来通販とは縁遠かった企業が中国向けECを立ち上げるケースもあるようだ。このような企業の場合、「ECサイトを立ち上げること」が先行して、いったいどのようなマイルストーンを置いて歩んでいくのか、それを客観的に測るにはどのような指標を用いるのか、予測と異なる結果が出た場合、何を参考にどのように補正するのか、殆ど計画がなされていないケースもある。そうしてサイトを立ち上げてしばらくしてから出口の見えない売上の伸び悩みに苦しむことになる。

尤も、中国へ向けた商取引が中長期的に伸びしろが大きいことは私も異論はない。ただし、法制度やインフラ面、あるいは文化や言葉の違いで課題が非常に多いのだから、それに見合った慎重さを持って取り組まなくてはいけないと感じている。現在売れないのであれば、それはアクセスが足りないのか、トップページで離脱しているのか、商品を見て離脱しているのか、あるいは購買プロセスで離脱しているのか、広告の媒体や表現による違い、利用経路による違いなどをきちんと調べて最適な手段を選び出していく作業が必要だ。いきなりうまくいくケースなんてほとんどないのだ。

この、過程を知って評価するための仕組みが、残念ながら海外向けECではあまり提供されてこなかった。従来からの選択肢としては3つあるのだが、

  1. GoogleAnalyticsは日本からも手軽に使えるアクセス解析サービスなのだけれど、ECの解析には十分な機能が提供されていない(頑張ればできるけれど、かなりのカスタマイズを覚悟する必要がある)。あと、解析データはGoogleも利用できるようになるのでコンプライアンス上問題になるケースもあるはずだ。
  2. 日本製の解析サービスに至っては、海外からのアクセスが全て「その他」になるという扱いなので、利用にはかなり難がある。
  3. あとは、海外製の高価なアクセス解析サービスを日本へローカライズしたものを使うという方法もあるけれど、まだまだ立ち上がりの時期である海外向けECに数百万〜数千万するような解析サービスを載せるのは無理がある。

そういった経緯があって、今回マルチリンガルカートが提携したeconda(エコンダ)ショップモニター(http://www.inter-office.co.jp/econda/)は、

  • スタートアップの段階である海外向けECが必要としている
  • 海外からのアクセスを丁寧に解析でき
  • しかも低価格

という意味で、海外へECを行いたい企業にとっては画期的なサービスだと思う。
尤も、国内向けに使っても高機能だし、別にマルチリンガルカートを導入しなくても単品のASP・あるいはインストール型ソフトとして導入できるので、ECのアクセス解析、あるいは業務改善に関心のある方は見てみて損はないと思っています。